これぞ秋の味覚!?

これぞ秋の味覚!? 河原で捕ったバッタを味わう“バッタ会”

8月に多摩市でおこなわれたセミ会で昆虫の味わいを知ってしまったBUGS GROOVE取材陣。その際に聞いたのは、昆虫食に親しむ人たちが心待ちにするもうひとつのイベント“バッタ会”です。昆虫料理研究家・内山昭一さんの『昆虫料理研究会』の主催で、毎年秋、東京近郊の河原で開催。自分たちで捕ったものを野外で料理して食べるのが基本です。バッタって本当にそんなにおいしいの?これはやはり、参加してみるしかないですよね。

細い葉にバッタの姿が。これがおいしそうに見えるようになれば上級者?

河原で散開してバッタ捕りに挑戦

関東を直撃した台風19号の影響でいく度か日程の変更があったためか、当日集まったのは20人ほど。集合場所の京王線高幡不動駅から向かったのは近くを流れる浅川という川です。

歩きながら聞こえてくる参加者の会話がなかなかスゴイ。「カタツムリは貝類だからコリコリしてて」「ミミズはまず中身を出さないと」など、相当の猛者も参加している様子! 一方、昆虫食に挑戦し始めたばかりの人や、食べるのは初めてという人も半数くらいを占めるようです。

駅から10分弱で川へ。増水で荒れた河原を眺めながら歩く間も、会話のほとんどは昆虫食の話。

そうこうしているうちに、川に到着。流れは平静ですが、河川敷の草は台風による増水ですっかり倒れ、一面に泥に埋もれた跡が。ここに私たちが食べるバッタはいるのでしょうか…? 内山さんは「少ないかもしれませんが、虫は意外と戻っています。バッタだけでなく、見つけた虫はいろいろ捕ってみましょう!」

河原の橋の下が今回の拠点に。説明を受けてから虫捕り網と、捕獲した虫を入れる袋が配られた。
内山さんの捕虫スタイル。目線を下に向け、前屈みになって歩くのがポイント。

参加者それぞれに虫捕り網が配られ、さっそく探索開始です。取材陣も網を手に、倒れきった草の間を歩いて行くと…確かにいます! いきなりピョンと跳ねていくものが。けれど捕るのが難しい。見つけて網をかぶせても、重なり合う草に紛れて逃げていきます。しかも力が強い。網から袋に入れようとすると、小さな体でぐいぐいと抵抗し、あっという間にどこかに飛び立っていくのです。それだけ筋肉も豊かだということ? セミ会の樹木に留まっているセミを捕るほうがラクだったかも。

虫捕り網を手にした大人たちが河原のあちこちに。緑の草の中で緑色のバッタを見つけるのはけっこう難しい!
河原の倒れた草の間に紛れ込んだバッタはどこに…? 網の下を探って取り出していく。

それでも数匹をゲットし、今度は土手の遊歩道に上がってみました。こちらは水に浸からなかったエリア。昆虫も多そうです。近くには初参加ながらすでに大量のバッタを捕まえた人も。「よく見るとけっこういますよ。虫捕り、楽しいですね~」

昆虫食イベントには初めて参加という人も、大きなバッタをしっかりゲット。みんなが童心に返って虫捕り遊び。
土手の遊歩道脇でバッタを探す。通りかかった小学生からは「何してるの~?」の声も。

真似して両脇の草むらをじーっと見つめては動くものを探すと、確かに小さなバッタがそこらじゅうに。だんだんコツもつかめてきました。ばっと網をかぶせるだけでなく、舗装された歩道に引っ張り出す感じで動かせば逃げられにくい!とさらなるコツに気づいた頃には制限時間の1時間が終了。2人で参加した取材陣、1人は小さいのを9匹、もう1人はけっこう大きなバッタ4匹とシャクトリ虫の戦果でした。

本日の我々の収獲。右の袋のバッタはかなり小さいものばかり。食べるにはあまり向かないかも…。

ジョロウグモのカナッペに驚く

みんなが捕った虫は、洗濯ネットに集めていきます。ネットの穴から逃げていくものは「まだ子どもだから見逃しましょう」と内山さん。

オンブバッタ、イナゴ、ショウリョウバッタ、カワラバッタ、クビキリギス、キリギリス…種類はかなり豊富です。バッタ類のほかにはカマキリやコガネムシなどを捕まえた人も。驚いたのは大量のジョロウグモ。みんなが河原に散開している間に内山さん1人で捕ったそうです。こ、これも食べられるんですか、内山さん?「おいしいですよ。人数分は十分にあります」

内山さんが捕ったジョロウグモ。巣が集まっている場所を見つけるのが大収獲のコツだそう。

野草に詳しい参加者はノビルやヨモギ、ヘラオオバコ、カラムシなどを採取。セイタカアワダチソウやススキの新芽も食べられるそうで、このあとメニューを賑わせることになります。

河原で採れた野草いろいろ。球根がついているのがノビル。その右はヨモギとカラムシ。いちばん左はススキの若い穂。

食材が揃ったところで、さっそく調理の開始です。今回は、昆虫食も提供する高田馬場『米とサーカス』のスタッフがカセットコンロで調理し、できたものから試食するスタイル。雑菌などの問題を防ぐため、油で揚げるか炒めます。今日捕ったもの以外にも内山さん手持ちのおいしい昆虫も登場するそう。期待がふくらみます。

まずいただいたのは、タイワンツチイナゴの素揚げ。揚げている間も、特徴だというメープルシロップに似た甘い香りが漂います。味もほんのりと甘く、食感はサクサク。なんだか駄菓子っぽい懐かしさを感じる風味です。

徳之島で捕れたというタイワンツチイナゴ。脂肪分が多く、熱を通すと大きくふくらむ。
揚げると甘い香りがするのがこの昆虫の特徴。味もわずかな甘みがある。太い脚がいちばんおいしいという人も。

続いて内山さんが捕ったジョロウグモの素揚げです。少しだけマヨネーズを絞ったクラッカーに揚げたてをのせ、塩こしょうを少々。これがビックリのおいしさ! ほのかな辛みがあるだけでクセもなく、子持ちの個体だとマイルドな辛子明太子のようです。ピンと伸びた脚も美しく、これなら先進系フレンチのシェフが素材にしてもおかしくない!

姿も美しいジョロウグモの素揚げのカナッペ。脚には味があまりないが、腹部分は食べ応えがある。

さてお次はみんなで巣から取り出したオオスズメバチの幼虫を、マーマレードを塗ったフランスパンにのせたカナッペ。マーマレードの甘さとよく合い、白ワインが欲しくなります。スナックとして調味済みのアフリカ産サバクトビバッタの乾物はかなり辛く、ハイボールに合いそう。また、オケラの素揚げは噛んでいるとキノコのようなうま味が口に広がり、これもツマミによさそうです。

バッタは種類ごとに味わいも違った!

さていよいよ本日のメイン、捕れたバッタが天ぷらになって登場。塩をパラリと振った揚げたてに、どんどん手が伸びていきます。そのお味は…? いやー、確かにおいしい! みんなが秋の味覚として楽しみにしているのが納得できます。セミ会でも出会った参加者の1人は缶ビール片手に「うまいでしょう? ヤミツキになるよね、これは」

生きたバッタを水溶き天ぷら粉にくぐらせて、カラッと揚げるだけ。野山で楽しむのに最適な調理法。

初めて昆虫を食べる参加者も、これまでの料理を口にしておいしさを知るうち、抵抗感はすっかり消えたよう。「バッタ、やばいな!」という声も。みんなで楽しんで食べるという状況が、初心者にとっていかに重要かがわかります。

種類によって味が違うことにも気づきました。ここは好みの分かれるところかも。調理の様子を見ているとエビのように熱で赤っぽくなるもの、茶色が濃くなるもの、もともとの緑色のままのものがあります。赤くなるほうがエビに近い味で好きという人もいました。取材陣が気に入ったのは緑色を残すタイプ。上品で深みがあり、一流割烹で出されても問題ないと思わせる味わいです。

揚げたてのバッタ天ぷらがこちら。中央の緑色のものが取材陣の好み。もちろんほかもおいしい。

揚がるたび次々に食べ、野草天ぷらも楽しんですっかり満足。最後にアゲハ蝶幼虫の糞を煮出したお茶が出ました。え?糞ですか?

これがまた意外なおいしさ。番茶風の穏やかなやさしい味で、かすかに柑橘の香りもします。アゲハの幼虫は柑橘系の葉だけを食べて育ちます。消化分解した結果をいただくのが糞茶なんですね。

これがアゲハ蝶幼虫の糞。お茶パックに入れ、2分ほど煮出せば香りのよいお茶に!

発見の多かったバッタ会を終えて解散し、遊歩道を歩いて帰る道筋、草むらが気になってしかたありません。おいしい食材としてついついバッタを探してしまうのは、参加するまでなかった感覚。昆虫食の世界が、またひとつ開けました。

『昆虫料理研究会』
Webサイト

文: 秋川 ゆか

編集: BUGS GROOVE