タランチュラはスナック感覚!?

タランチュラはスナック感覚!? カンボジアの昆虫食事情 vol.1

東南アジアの中では、タイやベトナムなどと同じように『カンボジア』も昆虫食が盛んな国。コオロギ、タガメ、アリ、バッタ、カイコの蛹(さなぎ)などさまざまな昆虫を食べますが、特徴的なのがクモ、それもタランチュラです。

ポル・ポト政権下で根付いた昆虫食

カンボジアにおける昆虫食の歴史はそれほど古いものではありません。1975年から79年までの4年間、カンボジアを独裁支配したポル・ポト政権下での大量虐殺に加え、食糧難も深刻化し、200万人とも言われるカンボジア人が死亡しました。

そのとき、貴重なタンパク源だったのが昆虫。飢えをしのぐため昆虫が積極的に食べられるようになり、そのまま昆虫食文化が根付いたとされています。

特に、大量虐殺を恐れてジャングルに逃げ込んだ人たちが、地面の巣穴を掘り返して食したのがタランチュラでした。比較的肉厚で身が詰まっているタランチュラは大切な食料だったことでしょう。もっとも現在では、非常食というよりも、おいしいからという理由で好んで食べられているようです。

タランチュラはいわゆるクモの巣ではなく、穴を掘って生息している。

観光地では人気の名物料理に

プノンペンなど都市部の市場や屋台では、タランチュラが山積みにされています。毛むくじゃらの黒いタランチュラは手のひらほどの大きさで、山積みの光景はなかなかのインパクト!ただし毒はさほど強くなく、食べる場合も火を通せば問題ないそう。

基本的な調理法は“素揚げ”。塩と小麦粉をつけて油で揚げるのが一般的で、ガーリックで味付けするのも人気です。また、蒸留酒やワインに漬け込んで薬酒としている人もいるそうです。

タランチュラの素揚げは、足や表面はカリッと香ばしく、頭部や腹部の身はジューシーで、フライドチキンに似ていると言う人も。カンボジア人にとってはまさにスナックやおつまみ感覚。さらに、旅行者がかじりつきながら撮影するなど、観光地では名物料理のひとつとなっています。

レストランで味わえるタランチュラの素揚げ。

しかし、問題もあります。森林伐採の影響でタランチュラの生息地が減り、価格が高騰。例えば、都市部のレストランでは素揚げが3匹で700円前後と、地元の人たちにとっては高級品となってきました。さらに乱獲の恐れもあり、近い将来タランチュラがいなくなってしまうのではないかと懸念されています。

文 :久保田裕子
動画:BUGS GROOVE
編集:BUGS GROOVE