食べることは命をいただくこと─荒川真衣さんと昆虫食

食べることは命をいただくこと─荒川真衣さんと昆虫食 vol.2

現役の看護師でもあり、爬虫類や昆虫と暮らしながらSNSで昆虫食を発信する荒川真衣さん。vol.1では、昆虫を食べ始めたきっかけ、“次世代昆虫食タレント”としての現在の活動についてお話を伺いました。今回のvol.2では、昆虫食への想い、夢や目標について伺います。

昆虫との生活は毎日が自由研究

── 今、ご自宅ではどんな昆虫を飼っているんですか?

ヨーロッパイエコオロギ、フタホシコオロギ、デュビアというゴキブリの一種、ミールワーム、カイコの幼虫などを育てています。クワガタも飼育し始めました。

── すごい!本格的ですね。飼育していて楽しいことや難しいことなどはありますか?

虫は環境が変わるとすぐ死んでしまったりとけっこうデリケートですが、それはひとつの発見にもつながります。虫を育てることは、犬や猫を育てることとはちょっと違っていて、研究的な要素があるんですよね。卵を産んだから少し温度を上げようかな、これを食べさせたらこういう味のコオロギになるなとか。

── 確かに、住んでいる環境=食べたものによってコオロギは味が変わりますよね。

だから、毎日自由研究しているみたいですごく楽しいんですよ!うまく成虫にならなかったり、孵化できなかったりなど、悲しい終わり方になってしまうときもあります。でもそれも生き物の素晴らしさ。虫の一生を知ることができるなんて、ワクワクします!

── そうなってくると、温度管理など普段の生活が大変ではないですか?

温度、湿度に加え、夜はうるさいし、大変なんですよ〜。一人暮らしなので1Kの部屋で虫と一緒に生活しています。マネージャーさんに「洋服ちょっとくさいよ」って言われたこともある(笑)。

── え!どんな匂いが…。

生き物独特の生臭さ…。マネージャーさんも今は慣れてきたみたいですが、以前自宅ロケがあったとき、昆虫の匂いがすごかったと言われました(笑)。ちゃんと換気をすれば匂いはすぐ消えるので大丈夫なんですけど。好きなことでお金を稼げるようになったら、もう1部屋借りて、昆虫や爬虫類用のグリーンルームをつくりたいですね!

自宅でのコオロギの飼育の様子。温度や湿度の管理に気を配る
昆虫や爬虫類専用のグリーンルームをつくるのが夢

食べることは命をいただくということ

── 今までお話を聞いてきて、生き物の命に対する考え方が一貫していると感じます。食に対する考え方も、福井の田舎で育ったことが影響していますか?

子どもの頃の生活環境がすごく大きいですね。実家のある地区には飼育されている豚もたくさんいたし、登下校するときにイノシシもよくいました。猟師さんがいて、冬になると地域のみんなが集まってイノシシ鍋や焼き肉をするんです。実際に殺されていくイノシシを見ていたし、それを幸せに食べる人たちがいて…。食はすべてそういうことで成り立っていると思います。“食べ物”ではなくすべて“生き物”なんだ、それを“いただいているんだ”という感覚は子どもの頃からありました。

── 子どもの頃の経験は自分の根底にあるものですよね。荒川さんの原点はやっぱりそこにあるんですね。

虫を育てて食べることに対して「自分が育てたのに食べるなんておかしい」「残酷だね」と言われたりすることもあります。でも、それは私たちが見ていないところでも普通に行われていること。牛や豚も畜産農家が育て、出荷して“とさつ”されます。その部分を見ずして「残酷だ」なんて、現実をわかっていないことが私はとても悲しい。自分が育てて食べるとなると、最後まですべてを自分で行わなくてはなりません。だから、きちんと命に感謝して食べるという感覚が身につきます。その感じ方があるだけで、食に対する考え方が変わると思います。

── 日本に正しい昆虫食の情報を出しているメディアがまだ少ないし、その一翼を担えたらと思ってBUGS GROOVEを立ち上げましたが、荒川さんのこのような想いも含めて、きちんと発信していきたいと、改めて思いました。

昆虫食の可能性を見据え、自分らしい発信を!

── 日本では伝統食として昆虫を食べる習慣は残っているものの、先入観、飼育のコストなど問題点は多々あります。そのあたりも含め、これからの昆虫食の可能性についてどう思いますか?

日本の中での昆虫食は、健康補助食品みたいな感覚で広がるのかなと思っています。高タンパク質だし、栄養素がギュッと詰まっているので、健康補助食品として食事にプラスしていく方向性があるかなと。

さらに、日本は災害が多いから、非常食としての開発もできると思います。被災時に摂れなくなるのはタンパク質ですが、昆虫は栄養価も高く、工夫すれば保存もできる。生産の観点から現時点では低コストで提供するのは難しいかもしれないですが、ちゃんと理由付けのある発売の仕方、発信の仕方ができたらいいなと思っています。

それから、昆虫は食べ方や加工の仕方でおいしくなるので、食材のひとつとしての発信のほうが日本では広まりやすいと思います。

海外の貧困問題などはまだ勉強不足ですけれど、開発自体は日本の環境下のほうがやりやすいと思うので、生産サイクルが早く低コストで育てられる昆虫の養殖技術を日本が開発して海外に持っていくことができれば、現地の人にも喜ばれるし、目にとまると思います。

── すごくいい考えだと思います。例えば、個人活動では限界があるので、大企業が参入すれば、一気に広まる可能性もある。では、これからどういう活動をしていきたいですか?また、チャレンジしてみたいことは何ですか?

野望なんですけれど…昆虫食の商品づくりなど、一緒につくり上げるプロデュースをしてみたいです!今までメディアに出ることを目標にしてきましたが、昆虫食を勉強すればするほど、もっと昆虫食自体を広めたいという気持ちになってきました。そうすると、自分がつくり上げたものを知ってもらいたいという思いが強くなってきたんです。

女性で昆虫食に取り組んでいる人はまだ少ないし、私だからできる昆虫料理など、発信できることはたくさんあります。もっと本格的に活動をしていきたいと思っています!

コオロギ粉末が練り込まれたクリケットパスタを使った『コオロギトマトパスタ』。タンパク質も十分に摂れて健康的!
コオロギの出汁が効いた『コオロギ炊き込みご飯』。誰もが食べたいと思えるよう、盛り付けも美しく

── みなさん興味を持ってくださっているわけですから、今までの活動の延長線上でやっていきたいということですね。

でも、自分が目立ちたいという感覚はあまりなくて。それよりも、自分が作ったものを食べてもらったり、昆虫に興味を持ってもらったり、日本ならではの虫取りの文化を生かして自然学習してみたり、子どもたちに昆虫食を知ってもらったり…いろんなことができると思います。“人の役に立つ”という考えを持って、楽しく昆虫食を広めていきたいです! 

── 本日はありがとうございました。昆虫食に対する熱意と、そこに至るまでの過程がよくわかりました。BUGS GROOVEも、荒川真衣さんと一緒に企画して活動の幅を広げていきたいと改めて思いました。これからもさらに昆虫食の可能性を追求していけたらと思います。

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文 :久保田 裕子
写真:荒川真衣・BUGS GROOVE
編集:BUGS GROOVE