アフリカ産のイモムシでレトルトカレーを開発!─entomo の取り組み vol.2
食用昆虫の輸入、製造、販売を手がける『昆虫食のentomo』では、西アフリカのブルキナファソ産イモムシ「シアワーム」を使った『いもむしゴロゴロカレー』を開発中。代表の松井崇さんに、昆虫食の中でイモムシに注目した理由やアフリカ産の昆虫にこだわる理由などを伺いました。
イモムシが秘めている可能性
昆虫食の中でもイモムシに注目したのは、イモムシが完全変態の昆虫だからです。
昆虫は、幼虫から蛹(さなぎ)を経て成虫になる「完全変態」と、幼虫から直接、成虫になる「不完全変態」に分けられます。完全変態の昆虫は、イモムシがチョウに変わるように、幼虫と成虫で姿がガラリと変化するのが特徴です。それに対して、不完全変態のバッタやコオロギなどは、幼虫と成虫で見た目の形はあまり変わりません。
世界で繁栄しているのは完全変態の昆虫のほうで、数も種類も多く、全体の約8割を占めます。その理由は、完全変態の昆虫は、幼虫と成虫で体の機能が大きく変化し、分業化が進んでいるからです。幼虫の体はエサを食べて成長することに特化され、成虫の体は繁殖することに特化されていますので、数が増えやすいのです。
完全変態のイモムシは、育ちやすく増えやすいので、将来的に品種改良することを考えても可能性があり、面白いのではないかと着目しました。栄養成分を見ても、タンパク質が約6割を占め、食物繊維の量などもコオロギとほぼ同じです。
ブルキナファソのイモムシを「シアワーム」と命名
アフリカのイモムシを調べていて出合ったのが、西アフリカの内陸に位置するブルキナファソの「シアワーム」でした。白と黒のゼブラのような模様があるイモムシで、シアの葉を食べる害虫です。蚕(カイコ)は家畜化されたイモムシですが、桑の葉を食べる蚕の親戚みたいなものですね。
南アフリカでは、モパニの葉を食べるイモムシが「モパニワーム」と呼ばれ、ポピュラーな食材になっています。シアの葉を食べるイモムシは日本名がなかったため、私がモパニワームに倣って「シアワーム」と名付けました。
シアの葉を食べるイモムシ、シアワーム
画像参照元:Rik Schuiling / TropCrop-TCS / CC BY-SA
シアの木は、実から抽出される植物性油脂がシアバターと呼ばれ、昔から肌や髪用の保湿クリームとして使われています。現地では、シアの実を採集し、種子からシアバターを作るのは女性の仕事。その傍ら、害虫駆除も兼ねてシアワームを採集し、食料にしています。
シアワームは茹でたものを天日干しにして保存します。乾物なので長期保存が可能です。干したものは色も固さもかりんとうに似ていて、煮干しに近い味。そのままでも食べられます。チリ味やコンソメ味などのパウダーをつければ、スナック感覚でサクサク食べられる感じです。
現地では、料理するときに水やお湯で戻してから使うようで、日本の干しシイタケのような使い方でしょうか。煮ても形が崩れないので煮物料理に使いやすく、ビーフジャーキーのような噛み応えがあります。
entomoでは、シアワームはすでに商品として販売していますが、現在、丸ごと使ったレトルトカレーを開発中です。西アフリカでは、トマトを使った煮物料理にイモムシがよく使われるので、トマトベースにし、現地のドライマンゴーも使ったカレーにしました。
レシピ開発には、東大阪大学短期大学部実践食物学科の松井欣也教授に協力していただいています。松井教授は昆虫食を災害食として研究している栄養士の先生です。
シアワームの輸入で西アフリカの雇用創出にも貢献
レトルトカレーのイモムシは、シアワームとモパネワームの2種類を使用予定です。同じアフリカでも、西アフリカのブルキナファソより、貿易の盛んな南アフリカのほうが物流システムも整っています。アフリカのイモムシなら、ブルキナファソのシアワームより、南アフリカのモパニワームを輸入するほうがコストも安く手間もかかりません。けれども、最貧国といわれるブルキナファソからも輸入することに意味があると思っています。
ブルキナファソでは、シアバター用のシアの実を集めて加工したり、シアワームを採集して加工するのを女性団体が請け負っています。シアワームを輸入することで、現地の雇用創出や女性の地位向上に少しでも役立てればいいと思っています。
アフリカへの経済援助を考えるなら、中間業者を通さず、現地の人から直接買うことが最も効果的。フェアトレードを心がけています。
コストだけを考えれば、東南アジアからイモムシを輸入するという方法もありますが、昆虫は遠く離れた土地のもののほうが、種類や形状も違って面白いというのが持論です。出合う機会も少ないので、アフリカの未知の昆虫食をもっと日本に紹介していきたいですね。
データ:
『昆虫食のentomo』
Webサイト
文 :桑畑 裕子
写真:昆虫食のentomo・Rik Schuiling・PIXTA・BUGS GROOVE
編集:BUGS GROOVE