シロアリがケニアの栄養失調を救う!? Mr.シロアリマンの挑戦

シロアリがケニアの栄養失調を救う!? Mr.シロアリマンの挑戦

シロアリといえば、日本では木造の家屋を食い荒らす害虫のイメージですが、実はシロアリは種類が多く、食料としている国もたくさんあります。アフリカのケニアもその一つ。今回は、ケニア出身の“Mr.シロアリマン”に、ケニアの昆虫食事情と、“シロアリ昆虫食”でアフリカの栄養失調を改善するという独自の活動について話を聞いてきました。

Mr.シロアリマン
本名 キップランガト ジャスタス(Kiplangat Justus K)、ケニア出身。16年前に来日し、IT企業で働きながら、アフリカの慢性的栄養失調の問題を解決するため、“シロアリ昆虫食”の持続可能な地産地消を研究中。故郷ケニアで栄養改善の取り組みをスタートさせる。

ケニアの部族に伝わる昆虫食の文化

ケニアは40以上の部族が暮らす多民族国家で、部族によって異なる言語や食文化を持っています。「それぞれの部族が暮らす地域や気候によって、食べる昆虫の種類や量は違いますが、どの部族にも伝統的に昆虫を食べる文化がありますよ」とMr.シロアリマン。

Mr.シロアリマンの故郷はケニア西部のケリチョ。標高1500mの高地にある紅茶栽培が盛んな農村です。Mr.シロアリマンはカレンジン族で、昆虫をたくさん食べる部族ではありませんが、それでも子どもの頃は、バッタやシロアリ、カブトムシの幼虫などをよく食べていたそうです。

Mr.シロアリマンの故郷、ケリチョ。首都ナイロビから北西へ約260kmの位置にあり、紅茶の産地として知られる。

「バッタは焼いて食べますが、“ケニアのエビ”と言ってもいいような味わいですね。生のシロアリは子どもが好きなカシューナッツの味。シロアリは軽く炒めて塩味をつけると、肉のような風味が出て、日本でいう主菜のようなメニューになります。カブトムシの幼虫は、塩茹でして干した物をシチューにして食べたりしていました」

カレンジン族で昆虫を食べるのは子どもが中心。自分たちで捕った昆虫を自分の家で調理して食べるだけで、昆虫を食材として売買する習慣はありません。

「私が子どものころは、小雨の日に地面の巣穴から飛び立つシロアリを捕まえて食べたものですが、今はシロアリを食べたことがない子どもも増えています。近くに甘いお菓子やスナック菓子を売る店ができて、手軽に買えるようになりましたから」

けれども、隣の地域で暮らすルヒヤ族は、大人も子どももシロアリを主食にしているほどで、今も干した物や茹でた物などいろいろなシロアリが市場で売られています。伝統的な昆虫食の受け継がれ方は、部族によっても違うそうです。

シロアリを乾燥させたもの。1匹の大きさは2~3cmほど。

栄養改善の決め手は“シロアリ昆虫食”の普及

Mr.シロアリマンは、故郷ケニアの人々の慢性的栄養失調を“シロアリ昆虫食”で救う活動を始めています。そのきっかけは、国連食糧農業機関(FAO)が発表した「食用昆虫―食用および飼料の安全保障に向けた未来の展望―」という報告書などで、昆虫食が未来のタンパク源、栄養源として注目されるようになったことでした。

「栄養失調で苦しむ人々をケニアでたくさん見てきて、その問題を解決したいと思っていました。『昆虫にはタンパク質などが多く含まれ、栄養価が高い』と知ったとき、すぐに子どもの頃に食べていたシロアリのことが頭に浮かびました」

シロアリは現地スワヒリ語で“クンビクンビ”と呼ばれる。雨期に出現する。

幼少時代にシロアリを食べていたのは、「シロアリがおいしいから」でしたが、シロアリの栄養価を調べて、とても驚いたといいます。

「アフリカで不足している主な栄養素は、タンパク質、亜鉛、鉄分、ビタミンA、ビタミンB2の5つですが、現地のオオキノコシロアリには、その5つが豊富に含まれていたんです。しかも、5歳児なら1食当たり、たった大さじ1杯半(乾燥後の重量で23g)のシロアリで、必要な栄養をほぼ摂取できるというスーパーフードでした!」

シロアリは味もおいしく、伝統的に食べる習慣があり、栄養価も高く、現地にたくさん生息しています。しかも、生で食べられる唯一の昆虫。「これはすごい!」と思い、アフリカの栄養失調を改善するため、“シロアリ昆虫食”の普及活動をしようと決心したのです。

乾燥シロアリの粉末を加えたチャパティ。
“ウジ”というお粥。ベーシックな食べ物もシロアリで栄養アップ。
乾燥シロアリをたっぷり加え、バナナパウンドケーキを試作。

この活動を展開するためには資金が必要なので、多くの人に知ってもらい、賛同者を増やすため、1年ほど前から“Mr.シロアリマン”として活動し、シロアリを連想させるコスチュームでメディアなどにも登場しています。

「ケニアで活動を始めるための資金集めとして、クラウドファンディングを行ったのですが、募集開始からおよそ1カ月で目標金額に達しました。昆虫食に興味がある、昆虫に興味がある、アフリカの飢餓をゼロにしたいなど、さまざまなことに関心を持つ90人以上の方が支援してくださり、これからの活動にも可能性を感じています」

イベントはもちろん、講演会や勉強会なども積極的に行っている。

現地で栄養改善の取り組みの第一歩を

現地での活動の手始めとして、1月にケニアへ渡航します。まず啓蒙活動が大切なので、Mr.シロアリマンが母校の小学校や幼稚園で栄養についての授業をします。

「シロアリがいかに栄養的に優れているか、シロアリなら少量で必要な栄養が摂れることを理解してもらえれば、給食で出す予定のシロアリ料理も積極的に食べてくれるはずです。なくなりかけていたカレンジン族の“シロアリ昆虫食文化”を復活させたいと思います」

かつてMr.シロアリマンが通った幼稚園。1月から栄養についての授業など啓蒙活動を始める予定。

それと同時に、一時的な援助で終わらず、持続可能なシロアリ供給システムをつくるため、現地でシロアリの種類や生息数などを調査して、次のステップを考える調査をするそうです。

「シロアリを大量に食べているルヒヤ族にシロアリの捕り方を教わり、そのスキルを子どもたちに伝えて、いずれは自分たちで捕獲できるようになるといいですね」

もし、シロアリを捕り続けるには十分な資源がなく、生態系を乱すようであれば、現地で養殖するための研究をする用意もあるといいます。

「シロアリマンの活動が現地で革命を起こし、これからはルヒヤ族よりカレンジン族のほうがシロアリを食べるようになるかもしれませんよ(笑)。まずは私の地元から“シロアリ昆虫食”の普及活動をスタートさせ、ケニア全体、アフリカ全土へと活動を広げ、ゆくゆくは世界へ昆虫食文化を発信していければ最高です!」

今後も、BUGS GROOVEはMr.シロアリマンとさまざまな企画に取り組み、“シロアリ昆虫食”普及活動もレポートしていきます。次回は、Mr.シロアリマンのケニアでの活動報告を予定しています。お楽しみに!

文 :桑畑 裕子
写真:Mr.シロアリマン
編集:BUGS GROOVE