世界で食される昆虫は2000種類!人類を支えてきた各地域の“昆虫食”
現代人が「昆虫は食料か?」と問われたら、暮らしている国や地域によって、「イエス」と答える人も「ノー」と答える人もいるでしょう。しかしながら、人類がサルと分化した約700万年前には、まちがいなく昆虫は人類の貴重な食料でした。人類の発祥とともに“昆虫食”の文化も始まっていたといえます。
人類の食生活を支えてきた昆虫
昆虫は身近にいて、簡単に手に入れられる貴重なタンパク源でした。昆虫の栄養価は高く、コオロギ100グラム当たりのタンパク質は牛肉と遜色ない量。この事実を知って驚く人も多いのではないでしょうか。タンパク質だけでなく、ビタミンやミネラルなどを豊富に含む昆虫も多く、実は昆虫は栄養面でとても優れた食材なのです。
今も、南極以外のすべての大陸に昆虫食文化が残っており、現在、食用にできる昆虫はざっと2000種類! 世界の100カ国近くに多様な昆虫食文化があるそうです。
世界でよく食べられている昆虫は、カブトムシなどの甲虫、イモムシ(蛾・チョウの幼虫)、アリ、ハチ、バッタ、イナゴ、コオロギ、セミ、ウンカ、カイガラムシ、カメムシなど。成虫のほか、さなぎ、幼虫、卵を食するものもあります。
日本は昆虫食大国だった
かつては昆虫食大国だった日本。大正時代の調査では、食用の昆虫は55種類ほどいました。ところが、第二次大戦直後の調査では約20種類に減少。昆虫食は急激に衰退しました。当時、イネの害虫であるイナゴは広い地域で食され、カイコ(さなぎ)、カミキリ(幼虫)、セミなども食べていましたが、現在まで昆虫食が残るのは、長野や岐阜などの内陸の地方。海に面した地域では魚がタンパク源でしたが、内陸では昆虫が重要なタンパク源でした。今でもイナゴ、ハチの子、ザザムシなどが伝統食として食べ継がれています。
昆虫食文化の残るアジア、中南米、アフリカ
アジアでは、中国とタイで日常的に昆虫食が見られます。中国では薬用、滋養物として昆虫を食べる伝統があり、現在もさまざまな昆虫が食卓にのぼります。農業国でもあるタイでは、タンパク源として食べられてきたのはもちろん、現在でも都市部ではおやつや嗜好品として親しまれています。また、世界に先駆けて食用コオロギの養殖に取り組み、開発研究を進めている点にも注目です。
中南米では昆虫食の文化があるのは先住民。例えばメキシコでは部族ごとに伝統があり、約230種類の昆虫を食用にしていたといいます。現在でも、路上でバッタのスナックが売られ、イモムシを蒸留酒に入れたり、炒めてタコスの具にするなど、昆虫食が根付いています。
広大なアフリカでは地域、部族によって違いはありますが、多種多様な昆虫が常食とされています。特にシロアリ類とイモムシ類が広範囲で食べられており、産業としては未発達ですが、都市部を中心に需要が増えているようです。
ヨーロッパや北米でスタートアップ企業が誕生
ヨーロッパでも、アリストテレス(ギリシヤ)の時代には、セミやカミキリなどの昆虫を食べていたようですが、現在では一部の地方で残っている程度。北米では、先住民がコオロギやセミなど100種類ほどの昆虫を食用にしていたという記録がありますが、それ以外に昆虫食はあまり見られませんでした。
ただし、ヨーロッパでは2018年1月、EU(欧州連合)加盟国で「Novel Food(ノヴェルフード)に関する規制」が施行され、昆虫が“ノヴェルフード(新食品)”に規定。栄養価の高さ、地球環境への負荷の低さなどが注目され、食用昆虫の養殖、加工食品の製造・販売するスタートアップ企業も誕生しています。
アメリカでも、健康志向や環境保護の観点から、大豆などの植物性タンパク質を使った代替肉が注目を浴びていますが、同じような理由で昆虫食への関心が高まってきています。
新たな昆虫食時代の到来
時代とともに減少してきた昆虫食ですが、10年ほど前、昆虫を食材として見直す動きがありました。2008年、国連食糧農業機関(FAO)が、栄養的に優れた昆虫食を積極的に推進するという方針を明らかにしたのです。2013年の報告書では、世界人口の増加による食料不足の対策として昆虫食が推奨され、昆虫食は新たな時代を迎えました。
ヨーロッパや北米を中心に食用昆虫ビジネスが活気を帯びる一方で、伝統的な昆虫食も注目され、昆虫ならではの味わいや香り、食感など、昆虫のおいしさを初めて体験する人も増えているようです。昆虫食が一般的になり、誰もが昆虫を「食料」だと答える日がそう遠くない日にくるかもしれません。
文: 桑畑 裕子
写真: PIXTA ・ Shutterstock
編集: BUGS GROOVE