自分の好きなことをとことん追求!荒川真衣さんと昆虫食 vol.1
現役の看護師でもあり、爬虫類や昆虫と暮らしながらSNSで昆虫食を発信する荒川真衣さん。
“次世代昆虫食タレント”としての活動やその原動力を知るため、BUGS GROOVEの運営代表、阿部淳也が編集部にてインタビューを行いました。昆虫食との出合いや昆虫に対する想いとは?
荒川真衣さんの真実に迫ります!
※ このインタビューは緊急事態宣言が発令される前、3月上旬におこなわれました。
子どもの頃は食卓にヘビの干物が!
── まずは、昆虫食に出合ったきっかけから伺っていきたいと思います。ご出身は福井県とのことですが、福井には昆虫を食べる文化がありますか?
あります!私が育った山奥では、若者は食べないですが、お年寄りはイナゴなどを食べていました。私も食べたことありますよ!
── 子どもの頃から昆虫を食べていたんですね。
一緒に暮らしていた私の祖父は、虫に限らず生き物が大好きな人で、昔は山羊を飼ったり、罠にかかったタヌキの子どもを保護して山に返したり…。食べ物としてヘビも捕まえていたんですよ(笑)。ヘビを食べることが普通だと思っていたら、そんなことをしているのは私の家だけで。玄関にアオダイショウを吊して天日干ししていたら、遊びに来た友達が絶叫して「これなに!」って。私は、ヘビはスルメと似たようなものだと思っていました(笑)。
── 確かに同じ乾物ですね…。すごいですね…。
ヘビの天日干しが食卓の上に置いてあるんですよ。両親は「やめてー!」と言っていましたけれど、私は子どもながらの好奇心で、祖父のやっていることにワクワクしていました。虫を含む自然の中の生き物に対して拒否感やマイナスのイメージがないのは、そんな環境で育ったからだと思います。
── 現在は、東京のご自宅で爬虫類や両生類を育てているそうですが、きっかけは何ですか?
芸能活動をしたいと熱意を持って上京しましたが、最初の2年間はお仕事があまりうまくいかなくて…。看護師のキャリアは積んでいましたが、東京に馴染めなかったんです。何もかもが自分の感覚とかけ離れていました。友達と一緒に遊んでも、例えばブランドショップに行っても楽しいと思えなかったし、美容の話にも興味が湧かなかった。やっていることが私の心につながっていかなかったんです。馴染もうと頑張ってみたけれど、そんな自分にも違和感がありました。
そのうち、家に籠もりがちになって…。そんなときにたまたまペットショップに行ったら、自分のポケットマネーで買える生き物がいたんです。それが、ヒョウモントカゲモドキ。小さなヤモリの一種です。こんなに小さな命なのに、私が来たとたんシェルターから顔を出してくれて、もうすごく可愛くて!その子を飼い始めてから、少しずつ子どもの頃に生き物が好きだった気持ちがよみがえってきて、東京にいても楽しいと思えることが増えていったんです。
── 爬虫類を育てることによって、気持ちにも変化が生まれてきたんですね。
無理に背伸びせずに、自分のままでいいと思えるようになりました。地味でも家で爬虫類と一緒にいるときのほうが自分らしい。そして、爬虫類の餌としてコオロギを飼い始めました。もともと趣味や好きなことに没頭してしまうタイプなので、どうやったらコオロギをもっと増やせるか、長生きするかなど、いろいろと調べ始めると昆虫に対して興味がどんどん湧いてきて…。
── ペットの餌として育てていた昆虫を食べるようになったきっかけは何ですか?
偶然でした。私が行ったペットショップにコオロギの姿揚げのスナックがあって。捕獲したものを食べるのではなく、商品としてコオロギが売られているということにすごく衝撃を受けたんです。しかもそのスナックには食べやすくなるようにBBQパウダーや青のりパウダーなどが付いている。好奇心旺盛なので、すぐに買って食べたのが始まりです。
── それはいつ頃のことですか?
3年前ですね。
── そこでスナックを食べていなかったら、今の荒川真衣さんはいなかったかもしれないですね。
もともと虫を食べることには抵抗がなかったので、それが周りから興味を持ってもらえるということに気づかずに生活していたと思います。そして、昆虫食の素晴らしさを知るところまでいっていなかったと思います。
SNSで昆虫との生活を発信
── 現在は看護師の仕事もしながら、タレントとしての活動の中で、昆虫食をメインに据えて発信していらっしゃいますよね。
昆虫食が自分の代名詞というか、“荒川真衣=昆虫食”となるきっかけが、虫を食べている動画をInstagramにアップしたことでした。「最近、興味があること」という感じで投稿したら、たくさんコメントがきて。虫を食べることがこんなに周りに驚かれるんだと逆にびっくりしました。そこから昆虫食に取り組んでいる人とつながって仲間も増え、昆虫食の可能性を感じて、もっと本格的にやりたいという気持ちになりました。
── 活動領域はTwitterやYouTubeといったSNSが中心ですか?
今はそれが大事だと思っています。もっとテレビなどでも発信はしたいですけれど、今は若い人を中心にネット社会になってきていますよね。YouTubeを見ている人のほうが圧倒的に多い。昆虫食は若い人にとってびっくりすることかもしれないけれど、その驚きがポジティブに作用して、どんどん広まっていくんじゃないかという期待もあります。
── マスメディアだとなかなか反応が見えづらいですが、SNSだとすぐに反応がありますよね。今後もSNSで発信をしていきますか?
コツコツと発信していくことが大事だと思います。ただ私の場合は、昆虫とたわむれるとか、自分にとって特別なことではなく、ただただ“好き”でやっていることを載せているだけなんですけどね(笑)。
── 最近、昆虫ショップでアルバイトを始めたそうですが、それはどうして?
“育てる”ということは、昆虫食にも絶対プラスになると思っています。国産のコオロギはとても少なくて、今は海外から輸入しているものを食べているけれど、日本で広めることを考えると、生産が追いついていないのが一番問題かなと。勉強になるのはもちろんですが、虫が育ちやすい温度や湿度などがショップに行くと体感できるんですよ。そんな経験もこれからの活動に生かせると思っています。
それから、虫はやっぱりコアなジャンルだから、好きな人だけが集まるコミュニティになりがちです。でも、それってよくないと思うんです。ショップの店長さんは私と同じ考えを持っていて、もっと広く虫を好きになってもらうためには、誰もが気軽に出入りできるようなショップをつくりたいと。だから、私も協力したいんです。
── 日本のメディアでは、昆虫食はどうしてもまだゲテモノ的な扱いが多いですよね。でも僕の中では、今年か来年あたりが日本での“昆虫食元年”になるのではないかと感じています。初めて昆虫スナックを食べたという3年前と比べて、今の周りの反応はどうですか?
反応の変化は実感しています!3年前は、ゲテモノ的に形がわかるものを食べているほうが、周りがワイワイと盛り上がっていました。否定的な意見を言われることもとても多かったです。でも、3年間続けていたら、周りの人が食べてみたいと言ってくれるようになったんですよ!もう本当にうれしくて!
多くの人に楽しんでもらえる料理を
── SNSでは昆虫を食べると同時に、料理も紹介していますよね。
虫も食も好きだから、料理することが楽しくて!昆虫の料理を自分で考えて作ってみて、おいしいものが出来たときはすごくうれしいし、もっと多くの人に食べてほしいなと思います。
私は、多くの人が食べたいと思えるような形で料理するようにしているんです。最近では、バレンタインデーにマネージャーさんにコオロギクッキーを作って持っていきました。コオロギというのがまったくわからないようなクッキーにしたら、おいしいって食べてくれて。昆虫食への考え方が私も含め、周りも一緒に変わってきているのをひしひしと感じています。
── 形があるもののほうがインパクトがあるから、難しいところでもありますよね。形がないとおいしいけれど、「これって虫?」というふうになる。
虫には見た目や味など、メリットもデメリットもあります。どちらを生かすにしても、人は興味を持つものだなと感じています。それが虫を楽しむということにつながっていくのかなって。
── なるほど。興味があるからこそ、否定している可能性もありますよね。例えば、虫の形がわかるから食べられないという人がいるのなら、形を変えてあげればいい。
形を変えても食としての面白さはあると思います。今、私がしたいことは、とにかく多くの人に虫を口に運んでみてもらうことです!
── 今まで作った料理の中で一番気に入っているものは何ですか?
『アリージョ』です!ツムギアリのお腹の部分を使っていて、アリのプチプチとした食感が味わえるし、見た目も楽しめて、なおかつおいしいんです。以前、テレビ番組でも紹介したんですけれど自信作です。
── 名前もキャッチーですね。
『虫蒸しパン』『蝉の殻揚げ』など、ネーミングは工夫しています。彼に食べてもらう愛情手料理を自分の中で妄想しながら作っているんです(笑)。ちなみに私、好きな男性のタイプはオニヤンマです。
── オニヤンマ男子ってどういうの?
オニヤンマはまっすぐですね。後退しないで突き進むから出世の象徴として扱われ、戦国時代の武将の着物などにもトンボ柄があったりするんです。好きなメスを見つけるまで小川を往復飛行する習性があって、女性に対してもまっすぐなんですよ。オニヤンマみたいな、不器用でも一途な人がいいなと思っています!
vol.2では、荒川真衣さんの昆虫食への想い、昆虫食の取り組みを含むこれからの活動について、そして“生き物をいただくこと”へのメッセージをお届けします。
文 :久保田 裕子
写真:荒川真衣・BUGS GROOVE
編集:BUGS GROOVE