第二のキャビアに!? サクラケムシ・プロジェクトへの道 vol.1
春になると日本中を薄ピンク色に染め上げる桜。そんな桜の木の天敵でもあるのが“サクラケムシ”です。
葉を食い尽くすために駆除されるこのサクラケムシを有効活用しようと企画を立ち上げたのが、第一園芸株式会社・OASEEDS(オアシーズ)事業本部に勤める有志たち。初山幸子さん、岩田 均さん、宍戸朝子さん、吉開千代さんの4人です。
社内のプロジェクトに応募
第一園芸のOASEEDS(オアシーズ)は、装飾緑化事業全体を包括したブランド。事業本部では、オフィスや商業施設、公共の場などの緑化、装飾、造園、庭園管理などを行っています。“新しいビジネス展開を”ということで、2016年から社内で『WAKUDOKI PROJECT』を開始し、社員が考える今までにない事業企画を募集しています。
そこで、初山さんが発案して応募したプロジェクトは、“大量に発生するサクラケムシを捕獲して商品開発をおこない、販売していく”というもの。
「ホテルの庭園管理に携わっているとき、天候はもちろん、ネズミやヘビ、ハチや毛虫といった、デスクワークだけではわからない“敵”を実感しました。そんな中、たまたま自分が嫌いだったこともあり毛虫について調べたんです。おいしい毛虫がいることを知って興味が湧き、それが今回のプロジェクトの元となりました」(初山さん)
“おいしい毛虫”というのがサクラケムシ。発生時期が終わりかけていたこともあり、1匹だけ捕獲できたものを数人で試食。初山さんが2日間ほど絶食させてフン出しし、塩茹でしてから炒め、会社に持参しました。
「口に入れたとたん、桜の香りがフワーっとして…。小さな欠片でしたが、桜餅を食べているような至福の感じ」(吉開さん)
「砂糖をまぶしてみたからか、和三盆の桜味みたい。食感はかりんとうのようでした」(初山さん)
見た目の悪さからは想像もつかない味に、みんな大興奮だったそうです。
サクラケムシは桜の葉の味
通称“サクラケムシ”は、モンクロシャチホコという蛾の幼虫。主に桜の木に群生して葉を食べる毛虫で7〜9月に出現し、北海道から九州まで生息。毒はなく触っても害はありませんが、葉がなくなると翌年の開花に影響が出てしまうため、庭園などでは見つけたら駆除します。見た目はゲジゲジした毛虫ですが、桜の葉しか食べないので味はまさに桜の葉の味。上品で優雅な風味であることから、昆虫食の中でも人気の高い虫なのです。
プレゼンに挑んだ結果は...
“桜を守るために奪う命だから、大切にいただく”をコンセプトに掲げ、初山さんを中心に半年ほどかけ、プレゼンに向けて準備。さまざまなワークショップに参加したり、昆虫食関係者らにコンタクトしたりするなどして研究するとともに、販路の確保についても検討。人工ふ化や養殖の可能性も模索しました。
「120年以上の歴史を持つ第一園芸は、造園業界と強いつながりがあります。発生の情報を一手に集められるかもしれません。また、サクラケムシは木の高い位置にいるので、採取する技術を持つ庭師との連携も大切。これらが実現できることが強みであると考えました」(吉開さん)
さて、プレゼンの結果は…。「残念ながら人件費などのコストや安定した採取、加工や販売といった採算の問題、食品メーカーになることのリスクなどから、社のプロジェクトとしては正式なGOサインは出ませんでした」(吉開さん)
イノベーティブな発想を大切にする社風でもあるため、社を挙げてのプロジェクトとはならなかったものの、毛虫の活用まで考えた庭園管理手法などは新たな視点であり、別の切り口もあるかもしれません。
「実は社内でも多くの人が私たちの事業プランに関心を示して、行く末を見守ってくれていました。何よりこんな面白い企画を諦めたくありません」(吉開さん)
そして、サクラケムシ・プロジェクトへの道を有志として模索すべく、4人は動き始めたのです。
サクラケムシの可能性
桜の種類によって味が違うのか、体のどこにうま味があるのかなど、サクラケムシは未知の部分ばかり。クマリンというポリフェノールの一種が含まれていることはわかっていますが、成分について詳細なデータもありません。
また、年によって発生にバラツキがあるため一定の捕獲量をどのように確保するのか、庭師との連携、運搬の方法、処理の仕方…クリアする課題もたくさんあります。これらの課題に取り組みつつも、何より伝えたいのは“サクラケムシがおいしい”ということ。
まずは、見た目の悪さから持たれる嫌悪感を払拭すべく、さまざまな料理やスイーツを試作するところから始めようと考え、次のサクラケムシ発生シーズンにチャレンジする準備をスタートさせました。
「目指すは第二のキャビアです!」(初山さん)
まだ誰も足を踏み入れていないサクラケムシの活用方法。季節ものではありますが、冷凍やフリーズドライも視野に入れればさらに可能性は広がります。
果たしてプロジェクトはどのようになるのか、次回はサクラケムシを使って実際に調理した様子をお届けします。
データ:
『第一園芸株式会社』
Webサイト
文:久保田 裕子
写真:初山 幸子・吉開 千代・PIXTA
編集:BUGS GROOVE