“新食品”としてヨーロッパで注目される昆虫食
世界中で注目を集めはじめている昆虫食、ヨーロッパにおいても“昆虫食ビジネス”が広がりをみせているのをご存知ですか。
そのきっかけの一つが、EU(欧州連合)加盟国で2018年1月1日に施行された「Novel Food(ノヴェルフード)に関する規制」と言われています。この中で、昆虫が“ノヴェルフード(新食品)”に規定されました。
ノヴェルフードとは?
ノヴェルフードとは、最初の新食品法令が発効された1997年5月以前にはEU加盟国において消費されてこなかった食品や食品原料。新たな技術や製造工程で作られた食品、EU外で伝統的に食べられてきた食品なども含まれます。これに該当する食品・食品原料は、EU議会および理事会の定める法令に従い、安全性の承認を得なければなりません。
昆虫が“食品”として承認されるようになったことで、安全性が認められた昆虫は、EU加盟国で自由な取引や販売ができるようになりました。これを機に、昆虫の養殖や流通が盛んになり、“昆虫食”がさらに大きなビジネスになるのではないかと注目されています。
ヨーロッパにおける昆虫食の歴史
昆虫食の歴史をみると、古代ギリシャの哲学者アリストテレスは「セミはきわめて美味」と書き記していますし、旧約聖書にもバッタ科の昆虫の一部は食べてもよいと書かれていて、ヨーロッパに昆虫食の習慣がなかったわけではありません。しかし現在は、イタリアなどの一部に、チーズの発酵を促すチーズバエの幼虫(ウジムシ)を食べる地方があるくらいで、ヨーロッパは伝統的に昆虫食が盛んな地域とはいえません。
その理由は、昆虫を大量に採取することが難しい気候風土だったからだと考えられています。では、昆虫食の伝統がないヨーロッパで、なぜ今、昆虫食ブームが起きているのでしょうか。
ヨーロッパには、昆虫を食べる文化は残っていませんが、学者や知識人は、早くから昆虫の栄養価に注目していました。貴重なタンパク源として、昆虫を食材として評価する研究はいくつもあります。さらに、昆虫食への関心を高めたのは、将来の人口増加による食料問題でした。
食料問題の解決策として有望な“昆虫食”
“昆虫食ブーム”の直接のきっかけとなったのは、2013年に国連食糧農業機関(FAO)が発表した「食用昆虫―食用および飼料の安全保障に向けた未来の展望―」という報告書です。これは、オランダのワーゲニンゲン大学の研究グループが中心になって作成したもので、昆虫は栄養的に優れているだけでなく、牛や豚などの家畜に比べて低コストで飼育でき、飼育中に排出される温室効果ガスが家畜より少なく、地球環境に負荷をかけないことが報告されました。
この報告書によって、昆虫が食料問題を解決する食材のひとつとなり得ることが、世界の人々に知られるようになったのです。
また、低コストで飼育でき、地球環境にもやさしい食用昆虫の養殖、加工食品の製造・販売など、新しいビジネスチャンスも生まれ、スタートアップ企業の活動も活発化しています。天然の昆虫があまり採れなかったヨーロッパでは、衛生的に養殖された食用昆虫が、現代の“昆虫食ブーム”を支えているのです。
自由貿易で“昆虫食ビジネス”も盛んに
オランダでは2008年に昆虫養殖協会(VENIK)が創設され、フランスでも2010年にフランス昆虫養殖・加工・販売業連盟(FFPIDI)が結成されて、昆虫食への関心が少しずつ高まっていました。
2013年にFAOの報告書が発表されると、ベルギーでは翌年、トノサマバッタなど数種の昆虫が食品として認可されました。けれども、EU全体では、昆虫が食品として認められていなかったため、販売は禁止も許可もされていない状態。そこで、フランスのFFPIDIが中心となり、昆虫をノヴェルフード(新食品)としてEUに申請しました。
ヨーロッパでは、フランス、オランダ、デンマーク、ベルギー、オーストリア、スペイン、イギリス、ドイツ、フィンランド、スイスなど20カ国以上で食用昆虫の養殖・販売が行われています。フランスやオランダなどのスタートアップ企業が養殖したコオロギやミールワームなどの昆虫は、EU加盟国はもちろん、日本などヨーロッパ以外の国々にも輸出されています。
ヨーロッパの昆虫食ブームは、一過性の好奇心からではなく、近い将来の食料問題や地球環境も踏まえ、多くの企業が参入して始まったものです。「ノヴェルフードに関する規制」の施行によって、昆虫食ビジネスの波はますます大きくなり、広がりを見せていくでしょう。
文: 桑畑 裕子
写真: PIXTA ・ Shutterstock
編集: BUGS GROOVE