昆虫スイーツを手作り!Mrs.Cricketの挑戦

昆虫スイーツを手作り!Mrs.Cricketの挑戦 vol.1

アーモンドバターサンド、ポテトチップス──思わず手に取りたくなる可愛らしいパッケージ。これらはクリケットフラワー(コオロギ粉末)を使ったお菓子です。

 

“アーモンドバターサンド”はココナッツ風味のクッキーでアーモンドバターのクリームを挟み、生地にもクリームにもコオロギ粉末が入っています。

 

“ポテトチップス”は米油で揚げたポテトチップスにコオロギ粉末をまぶしたもの。クッキーはきな粉に似た風味と少し酸味のある深いコク、チップスはエビに似た香ばしさとうま味。

 

どちらもコオロギだと言われないとわからない、初めて味わうおいしさです。

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アーモンドバターサンド。美容効果が高いといわれる濃厚なアーモンドバターを挟み、ボリュームもある。
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ポテトチップス。きめの細かいコオロギ粉末を使用している。
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これらを製造・販売しているのは東京都在住の清水美樹さん。2018年に昆虫食と出合い、コオロギを材料としたお菓子のブランド『Mrs.Cricket(ミセス・クリケット)』を立ち上げました。

海の美しさを守りたい

なぜ、コオロギのお菓子なのか──。旅好きの清水さんは、学生時代、何度も沖縄の離島を訪れます。それは、珊瑚礁の美しい世界にすっかり魅了されたから。

「私にとっては十分に美しい景色だったんですが、地元の方の『これでも汚くなる一方』という声を聞き、悲しくなって。海の中の環境はどんどん変わっていっている。美しい海を守り続けるために、何か行動せねばと考えるようになりました」

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清水さんは沖縄の海に魅了され、座間味島をはじめ離島に幾度となく訪れた。
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座間味島の海は世界屈指の透明度を誇る。珊瑚が豊富で、ウミガメの出現率も高い。
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グランドキャニオンにて。沖縄の海だけでなく世界各地を旅し、大自然に触れた。
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アルゼンチン南部のパタゴニア地方、氷河に覆われた山岳地帯にそびえる名峰、フィッツ・ロイ。

大学卒業後はメガバンクに就職するものの、1年で退職。

「今後どうするのか、自分の使命とは何だろうと真剣に悩みました。旅を通して見てきた景色、培ってきた経験、私だからこそできること…。それは、地球環境を守るため、自然からのメッセージを伝えていくということでした」

温暖化の原因のひとつ、畜産業

近年の異常気象の大きな要因のひとつはやはり地球温暖化。

 

「排気ガスや工業による燃焼が引き起こすと思っていましたが、論文を読むなど調べていくうちに、畜産業が温暖化に加担しているという事実を知りました」

 

牛など家畜のゲップには、二酸化炭素の約25倍の温室効果があると言われるメタンガスが多く含まれています。自分たちの食べ物について改めて考えていく必要性を感じた清水さん。

 

「肉類を一切食べないという極端なシフトではなく、これまで畜産物から摂取していた栄養素を、少しでも環境負荷が少ないカタチで摂取する方法はないか──そうして、たどり着いたのが“昆虫”だったんです」

 

清水さんはコオロギの栄養価に注目。同量の牛肉と比較してタンパク質は約2倍、ビタミンB12は約20倍。さらにカルシウムやアミノ酸、食物繊維なども豊富です。子どもの頃からお菓子作りが大好きで、パティシエへの憧れも持っていたという清水さん。「昆虫食を通して、温暖化による環境破壊を訴えたい、うまくいくかわかならないけど、とにかくやってみよう!」と決心したのでした。

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家畜のゲップに加え、ふん尿の処理過程で発生する一酸化二窒素には、二酸化炭素の300倍近くの温室効果が認められている。

コオロギ粉末を使ったお菓子作り

「ただ、実は私は虫が苦手で(笑) 姿形がわからなければ大丈夫ですが、そのまま食べるのは無理と思いました。しかも、食用の昆虫の入手方法や食べ方はまったくわかりませんでした。」

 

そんなとき学生時代の友人から、スタートアップ企業で食用・飼料用のコオロギの生産にチャレンジしている知人を紹介され、イベント用のお菓子を作ることに。コオロギ粉末を練り込んだクラッカーを考案し、2018年10月、パナソニックらが運営する若い世代を中心としたプロジェクト支援施設『100BANCH(ヒャクバンチ)』のイベントに初めて参加しました。

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100BANCHのイベントで好評だったクラッカー。コオロギ粉末を練り込み、かなりコオロギ感の強い味に仕上げた。

以来、タイからイエコオロギの粉末を輸入し、本格的にお菓子作りをスタート。日中は派遣業などで働き、夜に試作を繰り返す日々。

 

「昆虫食に興味のない人も手に取って、おいしいと思ってもらいたい」と、味も形状も意識したのはコオロギらしさをあまり感じさせないこと。試行錯誤を繰り返し、コオロギ独特のエビに似た香りやコクとマッチするココナッツをセレクト、生地やクリームに加える粉末の配合も調整。

 

ようやく納得のいくものが出来上がったのは、半年近く後、2019年3月でした。

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アーモンドバターサンドの試作品。生地の薄さで食感や味も変わってくるので、調整を重ねている。

環境問題を考えるフックにしたい

「まだ日本人は、コオロギを食べること自体にピンときていません。まずは食べ物であるということを認識してもらいたい。女性の私がスイーツを作るというのはギャップがあり、昆虫食=ゲテモノではないということも伝わりやすいのかなと思います」

 

パッケージも、一見昆虫を使っているとは見えないよう可愛らしく工夫。

 

「まずは『なんで昆虫のお菓子?』と不思議に思ってもらえたら。おいしさに驚き、そこから少しでも環境問題について興味を持ってもらえるとうれしいですね」

 

スタートアップ企業として量産化も視野に入れ、女性ならではの感性でアイデアを練る清水さんのチャレンジは始まったばかりです。

データ:

『Mrs. Cricket』

Webサイト

公式Facebook
公式Instagram

 

文: 久保田 裕子

写真提供: 清水 美樹

編集: BUGS GROOVE