オシャレなテイクアウト店が登場!─カンボジアの昆虫食事情 vol.5
首都プノンペンでは、ナイトマーケットや歓楽街の路上に昆虫屋台が並び、地元の人や外国人観光客らが利用しています。屋外で調理をして売る、昔ながらの屋台が主流のなか、健康志向で品質にこだわり、洗練された味付けとエコを意識したパッケージのオシャレな移動式のテイクアウト店が登場し、人気を集めています。そんな新しいスタイルでビジネスを展開するミン&ミース夫妻を取材しました。
若い女性をターゲットに味付けやパッケージを工夫
夫妻が扱う昆虫は、巨大コオロギ(タイワンオオコオロギ)とバッタの2種類。素材の味を生かしながら、厳選したスパイスやトッピングで味付けします。味はスパイシー、BBQ、ホット&スパイシー、チーズの4つ。これまでデリバリーサービスを中心としてきましたが、メインストリートで移動式のテイクアウト店を構えることになりました。
夫妻がデリバリーサービスを始めたのは2018年9月。会社に勤めていた妻のミースさんが体調を崩し、仕事を辞めたのがきっかけでした。もともと“自分でものを作って売る”という夢を持っていたミースさんは、IT企業の経営者でもあった夫のミンさんに相談し、2人で昆虫食ビジネスを立ち上げることにしたのです。ミンさんの弟がタイとの国境の街でコオロギの卸業を営んでおり、良質なコオロギが手に入ることも原動力のひとつとなりました。
夫妻のこだわりは良質な素材。養殖ではなく天然ものを使用し、調理する油にも気を配っていること。そして衛生的なのはもちろん、ヘルシーであること。
まず、天然ものを選ぶ一番の理由は“匂い”。
「以前試した養殖ものは、何回洗っても嫌な匂いが残ってしまって…。餌の問題かもしれません。自然の草や葉っぱではなく、人工的な鶏の飼料などを使っている養殖農家もあると聞きました。成長は早くなるけれど、香りが落ちるのではないかと思っています」
屋台の揚げ油は何度も使って真っ黒になっていることも多いですが、夫妻は一定量のコオロギを揚げたら油は廃棄し、再利用はしません。
「油の鮮度で味はまったく変わります。古い油を使う屋台と違って、わたしたちのコオロギは新鮮な味がします。わたしたちの商品は鮮度のよい油を使い、健康にもよいのが一番の強み。ある妊婦さんは毎日購入してくれましたし、子どもにも安心して食べさせているという方もいました」
容器は、屋台でよく使われるビニールやプラスチックではなく、紙製品のボックスを使用。環境への影響に対する意識の高さも若い女性の共感を得ています。さらにロゴを含め、デザインも工夫。ここまでこだわるのは、カンボジアではとても珍しいのだそうです。
スパイスを吟味し、洗練された味を完成
人気の理由は、その味付けにもあります。コオロギやバッタに合うフレーバーのスパイスを探して取り寄せ、試作&試食を何度も行いました。現在は、タイで人気のスパイスを使用しています。
調理はシンプル。よく洗ったコオロギに、タイの調味料、砂糖、大豆の調味料(醤油)をまぶして下味をつけ、素揚げ。香ばしく揚げたら、輪切りの唐辛子、タイのチリフレーバー・スパイス、乾燥したレモングラスやコブミカンの葉を加えて和えます。
巨大コオロギは肉厚で、臭みもなく、素材そのもののうま味がしっかりと味わえます。そこに洗練された味付けが施され、味にうるさい都会の女性にもおいしいと評判のようです。ちなみに、カンボジア在住の日本人のパーティーなどでも大好評なのだとか。
「外国人は、初めて食べるときは怖がっていましたが、“今までこんな料理を食べたことがない”と気に入ってくれました。カンボジアでのよい体験になったようです」
昆虫食の未来についてたずねると、「いずれ、誰もがコオロギやバッタを食べるようになると思います。今はまだ昆虫を食べたことがない人が多いかもしれないけれど、わたしたちの料理を食べた人たちのように、一度食べたら昆虫食を好きになると思います!」
今後はカンボジア国内に店舗を増やし、フランチャイズ事業の展開も考えているというミン&ミース夫妻。将来的には、コオロギやバッタと一緒にビールやワインなどのアルコールを楽しめるレストランをオープンさせたいと語ります。
「地元のカンボジア人はもちろん、外国人にもコオロギやバッタを食べてもらいたい。カンボジアに来るときに、わたしたちの昆虫料理を思い出してもらえたらうれしいですね」
世界遺産のアンコール・ワットを思い浮かべるように、おいしい昆虫料理がカンボジアへの旅の目的のひとつになる…。そんな日が近いうちにくるかもしれません。
※ 取材は2019年です。現在、新型コロナウイルス感染症の影響でお店は休業中だそうです。
文 :久保田裕子
動画:BUGS GROOVE
編集:BUGS GROOVE